警視庁捜査一課第三強行犯捜査第七係 第四話 《情死》



「引き揚げ、始め!」 クレーンが動き出す。先端から海中に垂れたワイヤーが巻き上げられていく。海面に波が立ち、やがて盛り上がり、白い乗用車の影が見えてきた。滝のように海水を垂らして座席部分のルーフが揚がってくる。見物の消防署員たちが、何か低く呟いた。かたわらで引き揚げ作業を見守っている七係の面々は無言だった。ゴミや海藻をひっかけたフロントガラスの下に、前部座席の水死体2つが見えた。

「お探しの男女ですか」 と深川署の誰かが声をかけたが、誰も応えなかった。無言の又三郎が車を一発蹴りつけた。森義孝は唾を吐いた。雪之丞は眉根に皺を寄せて目を逸らせ、十姉妹はハンカチで鼻をおさえてクシャミの三連発。夕暮れの近い海風と、溺死体の放つ冷気のせいだ。
あいかわらず、ガラの悪い七係の面々。特に、又三郎とお蘭ちゃん。 お蘭ちゃんはこの七係シリーズでは、よく唾吐いてます。ガラ悪っ。

車を離れた吾妻は、すたすたと肥後の方へ踏み出していく。見ていると、吾妻は近づくなり、肥後の手からタバコをひったくった。「さあ、肥後さん。どういうことか説明してもらおうか」 「私のせいだというんですか」 と肥後が目をむく。どちらも、外野には届かない低い声だった。続いて、双方の手が動く前に合田は素早く割って入り、同じく声を殺した。「ケンカするヒマがあったら、ザンゲせんかい、どアホ!」 これは、半分は自分に向かって言ったのだ。
今回は肥後を中心に話が展開しますが、そこにペコさんが絡んできます。この2人って仲悪かったんか? 意外だ。 しかし、そんなことよりなぜ、「ケンカするヒマがあったら、ザンゲせんかい、どアホ!」 って言葉を自分に向かって言う必要があるのだ?合田さん??謎・・・・ あぁ、そやけど合田さんの 『どアホ』 はやっぱし、ええなぁ~ 

七係のそれぞれが、それぞれの事情で少しずつ狂っていた。そもそも、8月も盆の頃になると、七係はいつも2つのグループに別れる。女房子供を田舎に帰省させ、いっときの自由と不自由で生活リズムが狂っている所帯持ち組。そういう変化もなく、ただ暑さを我慢しているだけの独身憔悴組。数の上では4対4。
合田さんとお蘭ちゃんは、言うまでもなく 《独身憔悴組》 ですねっ。 特に合田さんは夏に弱い、低血圧な貧血ちゃんですから、間違いなく、この時期は憔悴しまくっているハズ。そんな憔悴しまくって痛々しいところが、全国の雄一郎ファンの皆様の心を、わしづかみしているのでしょう、きっと。(そうか?)  ところで、お蘭ちゃんは夏には強いのでしょうか? あたし的には、あんまり頑丈なイメージ無いんですけど・・・ 森は、生っ白くて、ひょろひょろした不健康そうなイメージ。

この時期は例年、全体として何となくしまりがなくなり、ネタを取りこぼす頻度が高くなる。ポカはポカを呼び、自分のことは棚に上げての疑心暗鬼がケンカを呼ぶ。そいうとき、先陣を切るのはたいてい石頭筆頭、森義孝の《お蘭》だが、次いで確率の高いのが又三郎。次いで、吾妻。4番目が合田雄一郎だ。
またお蘭ちゃん、ボロクソ言われてます 石頭筆頭って・・・・、そりゃ、間違ってないけどさぁ、頭固々だけど・・・・高村先生・・・・・。 森くんってそういうキャラなのかしらねぇ しかし、またしても合田さん、4番目という中途半端な地味なポジション。主役なのに・・・

ところで今夏は、諍いの1番手は森ではなく、吾妻《ペコ》になった。対するは、薩摩の殿様、肥後和己。もともと水と油の2人だが、どちらも所帯持ちの余裕で普段は適当に折り合っているのに、さまざまな経緯があって、今回は正面衝突になってしまった。
やっぱり肥後と吾妻って、仲が悪いというか、折り合いが悪いんだ。 奥さんがいながら外に愛人作る肥後と、奥さんと自分の両方の両親の面倒を見て、それなりにストレスを抱えているらしい吾妻ペコ。ペコさんも人の子。肥後のコトが羨ましくもあり、妬ましくもあるのかな?

【「皇太子妃のような女性に出会ったら、ペコさんの人生だって変わるでしょうが」と言った肥後の言葉に】
「なに、なに」 図らずも、唯我独尊の森と林係長を除く全員がいっせいに首を突き出した。
唯我独尊→(自分だけが偉いとうぬぼれる事の意)。 ・・・まぁ、確かに森に当てはまるよなぁ、この言葉。 なんかお蘭ちゃん、石頭筆頭やら唯我独尊やらって性格最悪って感じ。 実際、性格ひねくれてるんだけど・・・(T_T)

荻窪署に向かう車の中で、肥後が歯ぎしりした気持ちの何分の一かは、合田たちも同じだった。事件番の日の交替時刻までに、事件が1件も起こらない日など昨今あったためしはなくとも、もし運が良ければと、いつもいつも考える。
事件番の交替時刻までに、何の事件も起こらなかったら休めるというコトなのだろうか? 事件が起きちゃったら、休みがパーってコトなんか?  だとしたら刑事って商売は大変やなぁ。下手すりゃ全然休めないってコトもあるんかのぅ。合田さんが憔悴していくのも分かるような気がする・・・。 仕事人間のお蘭ちゃんも、休みがパーになった時は 「っざけんなよっ!」 とか思ったりするのかしら?

こうなれば、合田たちが考えることは決まっていた。事件発生直後の出動だったにもかかわらず解決を逃がした連中を、まずはいびり倒すこと。次いで、《もしも》 の期待を潰された恨み半分、徹底的にあら捜しをすること。ホシを挙げる道筋を真剣に考えるのは、それからだ。もちろん、1時間でも早くホシを挙げて、もう忘れるほど長い間繰り延べになってきた休みを、今度こそ取れるか取れないかの真剣勝負だった。
やっぱ、タイミング悪く事件が起きて、ぜんぜん休めてないのね、七係・・・。 こんなんじゃ独身組はデートもままならないだろうなぁ。十姉妹ちゃんは彼女いるみたいだし。まぁ、森くんは関係ないか。休みでもどうせやること無さそうだし、せいぜい掃除して洗濯して終わりって感じっぽい。 雄一郎は、例のあの御方と、あんなコトやこんなコトを・・・・?。 でも、こんだけ休みないんじゃねぇ。あの検事さん(今現在は判事?)だって雄一郎以上に忙しそうだし。 でも、逢えない時間が愛を育てるって言うしぃ~。オホホホ  ちなみに、七係が捜査に加わったのは、事件発生から丸1日半たってからだった為、現場とガイシャを見ることなく捜査にかかったんだそうな。 それにしても、だからって事件直後出動した連中を、いびり倒すとか、あら捜しをするとかって、性格悪っ。 あら捜しは誰かさんが、会議でしょっちゅうやってますけど。

(捜査会議で)所轄の刑事課長の言葉を遮って、手ぐすねを引いていた森義孝が、ぐさりと横槍を入れた。 「だから、襲ったのが 《通り魔》 だということにはならんと思いますが」 一同の目が森へ流れる。 「表の看板に 《通り魔》 とあったのは、あれは何ですか。ブン屋を喜ばせるために付け足したんですか」 と森は言った。 ひと言多い。所轄の方から 「口を慎め」 という声が上がった。 「 《通り魔》 というのを説明して下さい」 と森はしつこく繰り返した。 
【・・・このあとも森の追及は続くが長くなるのでカット】
だからお蘭ちゃん、そういう事ばかりやってると、そのうち誰かにボコボコにされるって。あっ、もうすでにボコボコにされてるかもね。皆の知らないところで。 だから島に行っちゃったんだ。

森の意見は正しいが、そこまで時間とエネルギーを費やして親切に説明することもないという意味と、正直者はバカを見るという意味で、減点2点だった。 「もういい」 合田は森を制した。
「 《通り魔》 という先入観で捜査をやると、出てくるものも出てこない。表の看板は書き換えて下さい」 としつこく食い下がる森くん。 ホント、バカ正直というのか、なんというのか・・・。 素でやっているのか?、わざとなのか? よく分からん。 でも合田さんは、この偏屈お蘭ちゃんを、時にはウザく思いながらもちょっとは評価してくれてるのかな? 

実のところ、そのときの合田は、箸を取る気も起こらずにのびたソバを眺めている様な怠惰な気持ちだった。事件から立っている臭いが、直観的に自分の1番苦手な臭いだと感じていたせいだ。  ~ 途中省略 ~  それらの条件を重ねた絵図には、あとひとつ欠けているものがあった。多分、女だ。 被害者が生前に訪ねたのが女だという勘を持つのは、自分だけではないようで、又三郎も雪之丞に 「コレだぜ、コレ」 と小指を曲げて囁いていた。
事件の裏に女の影か・・・。 コト、女に関しては人生経験豊富であるに違いない又三郎、さすが鋭いっすね。 合田さんも、一応は気付いたか。コト、女に関しては人生経験あまり豊富では無いがな・・・。 まぁ、義兄の想いも18年間も気付かなかったぐらいだから、色恋沙汰についてはドンカンっぽいど、仕事では切れ者の合田さんだから、ちゃんとソコは勘が働くのね。偉い、偉い。 森はどうかな? コイツは間違いなく、色恋沙汰に関しては超ドンカンだろうから、ぜんぜん分かって無いんじゃないかと思う。 普段から、無粋、無粋と100万回くらい言われてるし。 合田さんも森くんも刑事としては優秀なんだろうけど、こういう色恋沙汰は苦手分野なんやろな。なんたって朴念仁コンビだからな・・・。 でも、そんな合田さんと森くん、カワイイ

合田の後ろでは、お供の森義孝が律儀に待っていた。 「吾妻主任が・・・・・」 と囁く。 「吾妻がどうした」 「刑事課長と話しているのが聞こえました。吾妻さん、1丁目25番の例のマンションの住民台帳を、署に調べさせてますよ」 地獄耳にかけては、森も吾妻に劣らない。 「割り込み、抜け駆けの鑑ってことだ」 とだけ合田は応えた。
暇な独身男だの、石頭筆頭だの、唯我独尊だの、地獄耳だの、言われたい放題っす、お蘭ちゃん。 まだまだ、この後も出てきます、森くんへのこういった散々な言い様・・・・(T_T)

30の森に分かるかどうかは知らないが、合田自身は谷村の屈折が、なんとなく身にしみた。脱線するほどの気概や能力もない、すべて 《そこそこ》 の焦りは、歳とともに必ずやどこかへ滲み出していくのだが、この谷村晴彦という男の場合は、人目をはばかった女との情交へ向かったのだろうか。
合田さんと森くんって3歳しか違わないのに、合田さん、森くんのこと、ずいぶん子供扱いしてるよね、普段から。 まぁ、でも確かに森くん、仕事人間で、こと仕事以外の事に関しては疎そう。だから悪徳商法に引っかかって、変なテープ買わされたりするねんな。

「誰が何と言おうが、ガイシャは、現に頭をかち割られたのだから、敵が1人もいなかったはずないです。谷村の経歴を子細に調べれば、必ず誰か出てきますよ」 と森は事務的に言った。 「女が絡んだ諍いなら、《敵》 云々いう言葉はちょっと違う」 合田は無意識に、個人的なその場の感情に任せて余計なことを言った。 「嫉妬いうのは、作るもんやなくて、生まれるもんや。敵を作るというのとは、ちょっと違う」 森は、どこが違うんだといった目を返した。 自分で経験してみたら分かるという台詞を、合田は結局出さずにすませた。
この合田さんの台詞、今考えると意味深。この後、『照柿』 で、合田さんは嫉妬に狂いますもんね。 この七係シリーズ、『照柿』 の前に書かれたと思われますが、高村先生がコレを書いた頃は 『照柿』 の構想がもう頭の中にあったのか? いんや、無かったと思いますねぇ。 『マークス』→『照柿』 は繋がるけど、この七係シリーズは繋がらない。 時期的には 『マークス』 『照柿』 の間辺りだと思われるんだけど、七係シリーズが間に入ると、色々と話の辻褄が合わなくなるような気がします。 この七係シリーズは、ちゃんと単行本化されている 《合田シリーズ》 とはまったくの別物と考えた方が良さそうです。高村ファンの間では、パラレルワールドという見方が多いようですし。 高村先生が七係シリーズを世に出さずに抹殺したのも、コレを単行本化しちゃうと、この後に続く 『照柿』 が、ぶち壊しになると考えた・・・からかも・・・・・?

3日目の朝、本庁から転送された肥後宛の私信の中に、ダイレクトメールのハガキ数枚が混じっていた。肥後は他の私信の何通かはポケットに入れたが、ダイレクトメールのハガキは全部、その場で破ってクズかごに捨てた。 それをまたご丁寧に拾ったのは手癖の悪い森で、破られたハガキの破片を1枚分かき集めて、そっと合田に見せたのだった。
手癖の悪い森・・・・。 ほらね、また出てきたでしょ。 この七係シリーズの森くんの扱いったらもう・・・。 森くん、ほんま散々な言われようっす・・・(涙)

ハガキは、新宿伊勢丹にあるブティックのダイレクトメールで、カラー印刷の表は、イタリア製秋物紳士服の写真だった。その下のわずかな余白に、『先日お買い上げのジャケットは、いかがでございましょうか。檜山瑠璃子』 とボールペンの手書きで書いてある。
捜査本部が立った8月16日の朝、肥後が着てきた、新しいサマージャケット。肥後いわく 「ヴェルサーチだぞ、ヴェルサーチ」。 その肥後のジャケットを見た雪之丞は 「サバの鱗ですな」 と呟く。 そのいわくつきのジャケットは、どうやら新宿伊勢丹で買ったものらしいと、ここで判明。 しかし、ヴェルサーチって、あたしもよく知らないけど、なんかド派手でチンピラが着る系ってイメージあるんだけど・・・? 違ったかな??  肥後にヴェルサーチってどうなん・・・・?。 だけど、この肥後のおっさん、愛人をとっかえひっかえとか、ヴェルサーチとか、大柄短足の西郷隆盛だろ? 愛人とかヴェルサーチとかぜんぜん似合わない気がするんだけど。前から、なんでこの人に愛人いるんか不思議でしょうがないんですけど。そんなモテキャラには思えないんだけど。

ひたすら気乗りしない思いで、えんえんと聞き込み先を回りながら、タイムテーブルの空白を埋めていた日々、ちょっと脱線した先で、合田と森は余分な知識も仕入れた。 昼下がりの新宿通りを歩いていたとき、何気なしに呼吸が合って、「ちょっと、覗いてみようか」 と伊勢丹本店に入り、例の紳士服のブティックに立ち寄った。何食わぬ顔で森と2人、秋物に変わったスーツやジャケットなどを数点眺め、値札を見、顔を見合わせた。どれもこれも完全に桁が1つ多い。声も出ずに、こそこそ引き揚げた。
きゃっ!きゃわゆい。朴念仁コンビ ヴェルサーチなんて買ったことないのね、きっと。 合田さんは、自身はファッションとかに興味無さそうだけど、加納さんが、アレコレ世話焼いてくれてそうだな。 加納さん、育ちが良いし何気にセンス良さそう。 「雄一郎、こんなの似合いそうだぞ」 とかセンスのいい服、薦めてくれそう。きゃっ  羨ましいのぅ、そんな人が傍にいて。その存在に、早く気付かんか、雄一郎!! しかし、合田さんはとにかく、お蘭ちゃんは、ヴェルサーチなんてゼッテェ似合わなそう。だいたいブランド品と森くんって、ありえない組み合わせ。ぺんぺん草がブランド品着てたら絶対、笑えると思う。ぷっ。(←ほんとに、ファンかよっ!)

デパートを出てから、森が 「肥後さんのジャケット、3万じゃなくて30万ですよ、あれ」 と呟いた。多分、そういうことだろう。バーゲンで半額になることはあっても、10分の1の値段になることなど有り得ない。人が着ているものなど、たしかにどうでもいいことだが、桁外れの話になると、さすがにちょっと気になった。
やっぱ、この朴念仁コンビ、ホント私生活はイケてない感じ。 ヴェルサーチの値段の相場なんて、まったく知らないのねぇ~。ぷぷっ。 (あたしも知らないけど)。 こんなんで、プライベートは大丈夫なんだろうか? 2人の私生活が心配だ。 まぁ、合田さんは加納さんがおるし、森は将来、嫁貰うし(涙)。余計な心配やな。

合田はちょっと迷いつつ、ジャケットのポケットにいつも入っている財布大の革のサックを取り出した。手袋をはめた手でドアの錠前部分を軽く撫で、目を走らせ、警報装置のついた特殊錠でないことを確かめた。 サックの中には錠前屋が使うギザギザの凹凸のあるピックが6本入っている。普通のシリンダー錠なら、数秒で開けることが出来る。気乗りしない思いで、試しにピックの1本を鍵穴にさし込み、軽く上下させてみる。ピックを取替え、同じように鍵穴の中のピンにピックの凹凸を噛み合わせて回してみる。 3本目で、シリンダーは簡単に回った。廊下に目をやりながらドアを開け、素早く自分の身を中に滑り込ませた。
行方不明中の事件関係者宅に忍び込む合田さん。 いくら捜査の為とはいえ、こんなことやって良いのか!? ほとんど泥棒と変わんないじゃん! これって、大丈夫なんか? 捜査方法に問題ないんか? ・・・・それにしても合田さん、ジャケットのポケットにいつも入っているって、そんなもん、いつも持ってるってコトは、しょっちゅうこんな事、やってるってコト? 人ん家の鍵、そんなに簡単に開けられちゃうってコトは、逆に犯罪も出来ちゃうってコトだよね!? こ、こわぁ~。・・・でもちょっと、かっこええ  しっかし刑事って、こんなこと朝飯前で、みんな出来るんか!? 

合田は入ってきた時と同じように、静かに部屋を出、廊下に目をやりながら、ピックで鍵をかけ直した。 ~途中略~  やっと背筋を伸ばし直して歩き出そうとしたら、斜め向かいのエレベーターが止まる音がした。 エレベーターのドアが開く前に階段口まで走れるか、目で測るうちにタイミングを逸した。
合田さん、まじ、犯罪者スレスレの事やってます。 事情を知らない人が見たら、絶対怪しい奴ですよ。 っていうかココだけ読んだら、犯罪者としか思えない。でも、警察官・合田もかっこええけど、犯罪者・合田もカッコイイかも

エレベーターから、若い女が出てきた。素知らぬ顔を作って入れ違いにエレベーターに乗ろうとした合田の頭のすみに、鈍い光がちらりと過った。 「あの・・・」 ととっさに合田は声をかけた。あれが檜山瑠璃子か。肥後に30万のジャケットを売った女の顔を見ながら、合田は次の言葉に詰まった。 「何か・・・・」「あの・・・・伊勢丹の紳士服のお店におられる方ですか・・・」「何かご用でしょうか」 女は、つけいるスキのない厳しい無表情の上に、目の奥で相手を品定めしていた。手強いなと思いながら、合田は言葉を探した。 「先日、私の知り合いがお宅でヴェルサーチのジャケットを買ったと言ってました」「それが、何か・・・」「いえ、別に」「私、急いでますので」 女はさっさとドアの中に消えてしまった。
この一連の行動、やっぱ不審者だよ、合田さん。 一応、この瑠璃子って女、事件の地どり区域内の住人の1人ではあるが、それにしても初対面の女に、急にこんな声かけるか、普通? 1つ間違えれば、変質者と思われて警察に通報されかねないんじゃね。 あたしだったら、絶対不審者だと思うぞ、合田・・・。 しかし、合田さんと話が出来るなんて、羨ましいぞ、瑠璃子。


(かなり)無理やり 【まとめ】
   
結局、合田さんが違法捜査スレスレ(?)で、忍び込んだ家の住人は、死体となって発見される。 それが冒頭の海から引き揚げられた車の中の遺体の人物、井原。 死因は妻を伴っての心中。瑠璃子は、その井原の不倫相手。
この事件は、痴情のもつれから起こった殺人事件で、通り魔の仕業じゃなかったってコトっす。



以下 【肥後と合田さんの会話】

「肥後さん、井原が女房を道連れに死のうと思った気持ち、分かります?」 

「まあ、あの井原の性格なら、人ひとり殺してしまった人生を刑務所で清算する気概や忍耐はなかったでしょうな。気概があったら、女房に20年もぶら下がれますか。瑠璃子にちょっかい出したのも含めて、易きに流される不甲斐ない人生だったんですよ、結局は」

「ところで、井原と瑠璃子はずっと続いてたんですか」

「井原はそう思っていたらしいが、私が瑠璃子と話してみたところ、瑠璃子の方はちょっと何というか・・・・。瑠璃子にしても、東京で10年も独りで生きるにはいろいろあるんですよ。ときには男にすがったり、ときには優しい気持ちになったり。それで、ふと我に返って、こんなのはみんな虚しい一時凌ぎだと思うんでしょうな。あれも、孤独な子ですよ」

「俺たち、肥後さんがあの子に入れあげたんだと思ってました」

「ご冗談を。井原が吊るしのジャケット1枚に28万はたいたって話をするから、私は初め、女に騙されたのかと思ったんですよ。で、ちょっと店を覗いてやろうと思ったんですが、正札見てぶっ飛んで・・・・・」

「俺もぶっ飛んだ。森と2人で逃げました」

「ハッハッ、そいつは私の勝ちだ。私は買いましたもんね。このやろうと思って。うちの女史には内緒で」

「ほんとは、瑠璃子に少しは惚れてたんでしょうが。ここのとこ、ぼんやりしてたくせに」

「さあね・・・・。そんな気持ちになれるもんなら、なってみたいですな。若いきれいな子を見て、ふらふらとなることも出来ないのが、齢45の現実だ。主任、あんたもそのうち私の気持ちが分かる様になると思うが、10年早いですよ、10年」

「ま、覚悟してます。乾杯」

「乾杯」

この合田さんと肥後のおっさんの会話、ほのぼのしているというかなんというか。 なんかいいなぁ。 森くんもたまには、合田さんとこれくらい喋ってほしい。合田さんと森くんが2人の時って、いっつも悲しいくらい会話ないよね~。合田さんも、肥後さんだと喋るんかい(悲)。 まじ、会話の無い朴念仁コンビ。・・・・でも、大好きよ




                                        

                                 警視庁捜査一課第三強行犯捜査第七係 第4話 読書感想記 《情死編》 ・・・・・・・ 【完】


             


今回は、森くんの出番が非常に少なく、特に後半はほとんど出てこないのが、つらかった。
合田さんも地味だし、抜粋するとこが無い・・・・。 パソコンの前で、固まることがしょっちゅうでした。

最後は、かなり強引にまとめちゃいました。
なんか、相当無理がありますね。  でも、いいんです (よくねぇよ!)
締めは、合田さんと肥後のおっさんの会話を原作から丸映しで、手抜きです。
ホント、こんなんで、すみません m(__)m
                                                                





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                         2013.1.1 UP



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