マークスの山 読書感想記・10




午後八時過ぎ、遂に二人の男の姿が現れた。見覚えのある合田警部補が、まず片手を挙げた。もう一人は、発疹のあるのっぺりした能面に清冽な目を光らせた青年だった。二人はほとんど駆けるように階段を降りてきた。
佐野警部目線での森くんの印象。 清冽な目を光らせた青年だって!! 七係シリーズでも森くんのこと、清冽な目って記述があったし、お蘭ちゃんは澄んだお目目してるのね。普段は性格悪いふりしているけど、本当は心が綺麗なのよぅ(ぺんぺん草だけど)。 でも、30歳で青年って・・・。まぁ、佐野警部から見たら青年なのか?

「おひさしぶりです」 爽快に素早く片手を差し出した合田警部補は、儀礼か何か、ささやかな笑みを見せた。三年前に比べてひと回り成長し、より底堅くより柔軟になった印象だった。
こっちも、佐野警部目線の合田さん。 合田さんも3年経って少しは大人になったってコトか。 しかし、この時合田さん、33歳。 『 冷血 』 から比べたら、まだまだ若さがみなぎってます。

佐野は、三年前に初めて合田と出会ったとき、なぜか最初に連想したのがひたすら鋭く切り立った穂高連峰の垂壁であったことを思い出した。しかし今は、裾野がどっしりと広がり、なおかつ日本第二の高峰である北岳の伸びやかな雄姿の方が、似合っているかも知れないと思い始めていた。
佐野から見た合田さんは、3年経って、若さゆえの尖った部分が少なくなって、雄大な男になったってこと?(雄一郎なだけに・・ぷっ)。 『 冷血 』 では、尖がったところが全く無くなっちゃって丸くなりすぎて、枯れちゃってる感じだけど・・・(悲)。 あたしは、尖がって少し青臭いところがある合田さんの方が好きだな。

~ 10月19日 月曜日 ~
「水沢が見つかった! 山に入った!」 佐野の怒号が飛び、捜査員たちがいっせいに飛び出していく。合田は、森を駅前の山交デパートへ走らせた。 「安いやつでいいから、軽登山靴と厚い靴下を買ってこい。俺のサイズは二十七。水さえ入らなければ何でもいい。半時間で戻ってこい」
お蘭ちゃん、あいかわらず合田さんに、使いパッシリされてる(涙)。 だけど、合田さんの足のサイズって、27cmなんだね。身長はどのくらいなんだろう? 足のサイズから身長割り出すのは、ちょっと難しい。 あたしが想像する合田さんの身長は、だいたい180~183cmくらいの間かなって思ってます。ちなみに、森くんも同じくらいの身長だと思う。

~ 10月20日 火曜日 ~
班分けが終了する前に、合田は救助隊の一斑とともに大樺沢の登山口へ飛び出した。重量六キロの防弾チョッキの上に、借り物のアノラックとゴアテックスの雨具の上下を付けただけの軽装だった。自分や救助隊員のペースに森がついてこれるとは思わなかったが、森が「行く」というので好きなようにさせた。「自分の心臓とよう相談して、もうあかんと思うたら、そう言え。無理するな」とだけ言っておいた。
合田さんは、自分や救助隊員のペースについてこれなかった場合、森くんを吹雪いている北岳の山中に置き去りにするつもりだったんだろうか?(汗)。 この一刻を争う事態に、ついてこれない森くんのペースに合わせてたら、水沢死んじゃうし。 森くんが 「もう、あかん」 言うたら、他の人は先に行かせて合田さんだけ森くんのペースに合わせてくれるん? きゃ~! そうだったら萌えだわ~

吹き下ろす雪を顔に受けながら、ほとんど駆け上がるのに近い歩調で枯れ草に覆われた踏路を登り始めた。先頭は戸部巡査部長。続いて、救助隊員二名。合田。森。救助隊員の残り四名。機動隊は、はるかに遅れて蟻の行進になる。
ほとんど駆け上がるのに近い歩調って! 悪天候の北岳を駆け上がるって!! そんなこと出来るの? 並みの人間技じゃないんじゃない? お蘭ちゃん、大丈夫なんだろうか?登山初心者なのに(涙)。

ひとり肩で息をしている森の喘ぎ声が、背後から響いていた。慣れない足は、浮き石や小岩をがらがら崩しているが、初めてにしては驚くほどしぶとくついてくる。
浮き石や小岩をがらがら崩しているって・・・・・、後ろの人、すっごい迷惑そう。めっちゃ、登りづらいんじゃないかな? しかし、喘ぎ声ってなんかエッチな響きだわ・・・(赤面)。

最後の堰堤と崩壊地を過ぎて、通常のコースタイムの半分ほどの一時間少々で沢を登り切ると、バットレス直下のガラ場に出た。
通常のコースタイムの半分で沢を登り切るなんてこと、可能なんだろうか? 救助隊はともかく、いくら登山経験が豊富な合田さんだって、そんなペースで登れるのか?高村先生(汗)。 だって足場の悪い、悪天候の北岳だよ。夜明け前の真っ暗闇な中、登ってんだよ。 そのうえ、重量六キロの防弾チョッキ装着してるんだよ~。 お蘭、よくついて行ったな・・・・。

先頭の救助隊員らは、素早く岩場の木梯子を登り始めた。合田はへっぴり腰の森を先に行かせて、下から叱咤した。前屈みになるな! 背筋を伸ばせ! こら、右足! 真っ直ぐ載せろ! 岩、落とすな!
きゃ~! 愛の叱咤だわ~ これも合田さんのお蘭ちゃんへの愛~ でも、岩、落とすのってホンット、後ろの人は迷惑

別の隊員は、水沢の傍らの雪を払いのけていた。風で飛ばないよう石をケルンのように積んだ下に、折り畳んだ衣服らしいものが置いてあった。白い看護服一式、紺色のカーディガン一枚、女物のサンダル一足だった。 無線交信の雑音が山々を駆け続けていた。 《 水沢発見! 死亡! 》
他に水沢の持ち物は、地図1枚、トカレフ1丁、現金2万数千円、懐中電灯1つ、 《 南アルプスに初冠雪 》 という見出しのある新聞の切り抜き1枚、使い残した簡易カイロ2つ。 水沢は、真知子と一緒に北岳の頂上に辿り着いたんですね。

黎明の虚空を眺めていた森が、「あ!」と声を上げた。天空を裂くような一陣の強風が、最後のガスを吹き払ったときだった。東の空一杯に、正三角形の巨大な山影が浮かび上がってくる。雲海の上にはその山しかなく、その彼方にはまだ昇らない太陽の、かすかな来光の片鱗がかかっている。
合田は思い出した。この白峰三山の稜線に立つとき、東側に見えるのはいつも、どこまでも、空と光と、真正面に浮かぶ富士山頂の姿しかなかったことを。その手前にも背後にも、何もない。ここから望めるものは、日本一の富士一つだ。
水沢裕之の眼球は、雲海に浮かぶ富士山景を真っ直ぐに見据えていた。その魂を犯し続けてきた《マークス》から逃れ逃れてここに辿り着き、真知子と一緒に、一晩待ちわびていた天上の夜明けが、もうそこまで来ていた。
最後に、水沢が真知子と一緒に北岳山頂から富士山を見ることが出来たと信じたい(涙)。


*   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   * 


《 加納です 》 と電話の声は応えた。
「 雄一郎 」
《 声が遠いぞ。どこからかけてるんだ・・・・・・ 》
「 広河原。北岳から水沢裕之の遺体を下ろしてきたところや 」
《 死んだのか・・・・・ 》
「 ああ 」 
《 死人に口無しか・・・・・ 》
加納祐介はそう呟いた。加納はおそらく、あの白骨の復顔写真が出回ったころに、すでに地検のルートで事件の裏を嗅ぎつけていたに違いなかった。それから三年後、事件が一連の恐喝殺人と化して東京で再び噴き出したとき、捜査に携わった合田に、広告のチラシの裏にメモを書いたりして、それとなく目配せを送り続けてきた。その男の、無言の絶望の吐息が伝わった。
「 祐介。頼みがある 」 と合田は端的に切り出した。 「 地検特捜部は佐伯正一の足取りを追っていたのなら、十月九日の赤坂の料亭に、住田会会長がいたことも知ってるだろう。そこに林原雄三がいたこともな。確かに三者がそこに 《 いた 》 という証拠が欲しい 」
《 雄一郎。気持ちは分かるが、焦るな・・・・・・ 》
「 焦ってへん。昭和五十一年十月に野村久志を山に埋め、平成四年十月五日と十三日に、住田会と吉富組を動かして水沢裕之を殺そうとして果たせず、結果的に無実の看護婦ひとりに重傷を負わせた弁護士が、最後に生き残った。俺は手段は問わへん。時効まで追ってやる。時間はある 」
《 ・・・・・・いつでもいい。連絡くれ 》
「 いや、明日や。午後十時、池袋のいつもの映画館で 」
《 ・・・・・・時間通りに来いよ。俺が居眠りしないように 》
加納祐介の沈んだ声を聴きながら、合田はふと言い忘れたことを思い出した。
「 なあ・・・・・正月登山は北岳にせえへんか 」
《 いいとも。ゆっくりゆっくり登って、日本一の富士を眺めようか・・・・・ 》



                 ~ マークスの山・読書感想記  完 ~
 



           




しかし、『 マークスの山 』 読んで思う事は、何が本当の善で、何が本当の悪なのか? ってこと。
世の中って、こういうシステムで出来ているんですかねぇ(悲)。
水沢を悪だとは思えないし、本当の悪は永久に捕まらないってことなんんですかね(溜息)。

さて、これで、『 マークスの山・読書感想記 』 終了で御座います。
長らくお付き合い頂きました皆さま、どうもありがとうございました m(__)m



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                           2013.11.25 UP



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