マークスの山 読書感想記・9




~ 10月17日 土曜日 ~
掃除は、一部屋ずつ進んでいた。二人の女のワゴンが林原の居室の前にさしかかった。女の一人がノックをした。何か声をかける。女たちがそのまま立ち止まっているところを見ると、中からの返事は 《OK》 のようだった。そのそばへ素早く近づいた吾妻が手帳を女たちに見せ、合田は唇に指一本を当てて女たちを睨んだ。
いよいよ、雲隠れ中の林原のホテルの居室に豆乳・・・・いえ、突入です。  『マークスの山』 単行本では、京王プラザでの吾妻ペコ&合田vs林原の緊迫した攻防戦は、27ページに亘って書いてあります。この攻防戦は 『マークスの山』 での一番の山場でもある場面ですが、モロモロの事情により抜粋は断念することにしました (要するに大変。面倒くさい)。 しかし、なぜここだけを抜粋したのかと言うと、掃除の為、林原の居室をノックしたホテル従業員の女性に向かって、唇に指一本当てて睨む合田さんに、萌え~ だからです。 あたしも合田さんになら、こんな風に睨まれてみたい~。

午後六時過ぎの満員電車で赤羽駅に辿りつき、三十八号棟の入口に立ったら、郵便受けから溢れているはずの新聞が見当たらなかった。 ああ、来たんだなと思った。 塵一つなく光っている食卓の上に、 《冬こそ穂高!》 という特集記事の見出しが載った真新しい山の雑誌が一冊置いてあった。 『ここを読め』 と、加納が何か所もページの隅を折り返している。 ( ~ 中略 ~ ) 加納とはたしかに正月登山の約束はしたが、すっかり忘れていた。かろうじて、これが男二人の個人生活かと思いながら、雑誌を横目で眺め、苦笑いが出た。
ああ、来たのね、祐介。 しっかしこの人、どんだけ掃除好きなんでしょう? 合田さん家、来る度に掃除してますよねぇ。(ちなみにあたしは、お掃除大っ嫌い)。 それにしても、合田さんの加納さんに対する仕打ち、ひど過ぎる。 「正月登山の約束をすっかり忘れてた」 なんて。 加納さんは、それはそれは楽しみにしているハズだぞうっ!! 加納さんって、本当に耐える人なのね・・・色んな意味で(涙)。

~ 10月18日 日曜日 ~ 
自分も、あるいは加納も、なぜ山へ登るのか。その理由は今でも知らないが、五人の男たちの後ろ姿の一部が、己の姿と重なっているような気がして、合田は自分の五臓が震えるような思いに陥った。
 「なぜ山へ登るのか?」 「そこに山があるから」。 昔、誰かがそんな様なこと言っていた気がする。 山男って、かっこええ  娘さん、よく聞~けよ、山男にゃ惚~れ~るなよ~

殺人こそ犯すことはなかったが、情念の発作という意味ではそれに近い様態は、何度もあった。理由のない無言の憤怒、不安、陶酔がくり返し押し寄せ、加納とは真夜中にいきなり殴り合いを始めたこともある。互いの首に手をかけたこともある。
加納さんが殴り合いだなんて。そ、想像できない(汗)。普段はあんな品行方正で、いつも涼風吹いている加納さんが人を殴るだなんて・・・・。(合田さんは殴りそうだけど)。 そして、合田さんと加納さんが首絞めあってる姿・・・・想像したくない(涙)。 山って怖いわ~。 

かと思えば、底雪崩の轟音が下がってくるのを聞きながら、ぼんやりと二人で坐ったまま動かず、 《俺たち死ぬぞ》 と笑っていたこともある。そのあと雪崩の爆風に吹き飛ばされて、互いの姿がしばし見えなくなると、突然激しい憎しみが走り、次いで、 《愛してる》 と思った。憎しみ、愛していると感じたのは、雪と山と寒さと恐怖と、世界と加納のすべてだ。
愛し・・愛してるってっ!!! 加納さんのすべてを愛してるっっ!!?? ・・・・・。 えっ、そうなんっ!? 合田さん、加納さんのこと愛してるのっ!?  じゃあ、両想いなんじゃん。加納さんの片想いだったんじゃないの? ど、どういうこと?? ・・・・・あたし、このふたりの関係性がよく分かりません(涙)。 

山々に感応する者の心身は、あの五人の男たちがそうであったように、大なり小なり傍目には分からない隠微な暗い底を持っているのだろうか。
という事は、合田さんも加納さんも、そしてお蘭ちゃんも、隠微な暗い底を持っているってことね。 うん、この3人は確かに持っていそう。

午後六時に、待合人でごった返した西口に現れた森は、発疹だらけの無残な顔をしていた。これでは、出てきたくても出てこれなかっただろうと、その顔をひと目見て合田は納得した。しかし森は、ひどい顔に似合わない清清した表情で 「山へ行ったら治りますよ」 と言っただけだった。
お蘭ちゃんの、発疹だらけの無残な顔・・・・見たくねぇ。 ・・・・いや、ちょっと見てみたいかも。例え、合田さんいわく、「見れば吹き出したくなる斑点だらけの顔」 だとしても、お蘭ちゃんだったらいいわ。 かわええかも(・・・・病気)。でもほら、あばたもえくぼっていうじゃなぁい。 山へ行ったら治るのね。やっぱり、アレルギーは精神的なモノなのねぇ(涙)。お蘭ちゃんって、やっぱ繊細なんだわ~。母性本能くすぐられるわ~~

森は、汽車の中で腹ごしらえするための折箱二つを、小田急デパートの地下で買ってきていた。まだ熱いウナギの匂いがした。 午後六時半、L特急は新宿駅を出た。森は一心に山梨県警から送られてきた岩田幸平の捜査書類や、浅野剛の遺書に目を通し、合田はほかの考え事をしながら、どちらも黙々と特上のウナ重を食った。
森くんって、やっぱり律儀だわ~。 約束したもんね。 「主任の勘が当たってたら、ウナギ奢ります」 って。 ちゃんと覚えてたのね。健気だわ(涙)。

森は目を皿のようにして、書類をひっくり返し続けていた。合田は、車窓の外の漆黒の闇を見つめながら、漠然とした何ものかを探り続けていた。それは甘く、苦く、未だに清涼な香りを保ったガラスの向こうの果実のようなものだった。多分、貴代子だろうということは分かっていたが、貴代子の 《何が、どこが》 という具体的な形はない。
合田さんってば、まだ貴代子に未練あんのかしら?

いつの間にか書類を伏せた森が、ふいに 「山へ行ってみたいと思ってたところでした」 などと言った。病院の待合室で山の本をいろいろ読むうちに、山へ登るという行為は自分に合いそうだと思ったという。 「どこが」 と聞くと、森は、見れば吹き出したくなる斑点だらけの顔に、冗談とも思えない夢想の表情を浮かべて、こう言った。 「現実的であると同時に厭世的で、自己陶酔的で、限りなく献身的で利己的で、且つ・・・・・・・繊細なところが」 「ええ?」 と合田は聞き返したが、それ以上の言葉はもう返ってこなかった。
この 「現実的であると同時に ~ 且つ・・・・・・・繊細なところが」 という台詞、あたし的には 『マークス』 単行本の中で一番の台詞だと思っているんですが・・・。 森くんのこの言葉は、一体何を指しているのでしょうねぇ。 抽象的すぎてよく分かりませんが、すご~く意味深な台詞だと思いませんか? 森くん自身のことなのか、山について言っているのか、それとも、合田さんのことを言っているのか? 山に感応するすべての人間のことを言っているのかな? それとももっと違ったこと?

合田は、五年ぶりに見た貴代子の姿に生々しい愛着を感じながら、暗い車窓を見つめた。夏祭りに、兄妹そろって前合わせを逆にした浴衣を着て現れ、 「兄さん、私たちどっか変よ」 と涼しい目で笑っていた貴代子。 「雄一郎。結婚式は欠席させてくれ。嬉しいような悔しいような複雑な気分で、何と言っていいのか分からん」 と頬を赤らめ、ほんとうに結婚式には出なかった加納。
出た~! 加納さんの 「結婚式は欠席させてくれ」 発言!! 妹の結婚式に出席しないって、相当のことじゃない? この加納さんの言葉、 『LJ』 での展開を考えると、凄く奥が深い気がする。 妹が、お嫁に行ってしまうのが悔しいんじゃなくて、合田さんが結婚しちゃうのが悔しいんだろうな。 そして相手は自分の妹。これ、相当複雑だよね。加納さん、葛藤したんだろうなぁ。 そして、雄一郎の離婚も複雑な気持ちだったんだろうな。 ちょっと嬉しかったりしたのかな? まじ、加納さんと合田さんの関係って複雑。 

これまで、あえて思い出すのを自制してきたのに、なぜか今は、自分の胸のうちにありのままを受け入れることが出来た。貴代子に未練がある。加納祐介に未練がある。それだけの事実であり、権力や自分の社会的立場とも無縁な、個人の話だった。終わったのか終わってないのか、結論を出さずにいることも含めて、そのまま受け入れたかった。何にも侵されない個人の領域を、自分に閉ざす理由はない。
合田さん、やっぱり貴代子に未練があるのねぇ。・・・えっ! 加納さんにも未練があるって、どういうこと~? 合田さんの加納さんに対する感情ってイマイチ分かんない。 加納さんの想いは、分ってるんだけど。 何かめんどくせえな、このふたり・・・・・。



               ~ マークスの山・読書感想記  次ページへ続く ~


           



ああ、『マークスの山/単・読書感想記』 も、やっとゴールが見えてきました。
もう少しで終わりそうです。 たぶん、あと1回ぐらいで終わると思う。
長すぎて正直わたくし、飽きてきてます。 
書いている本人が飽きてるんだから、読んでくれている皆さま(居るのか?)は、もっと飽きている事でしょう(汗)。
あとちょっとで終わりますので、もう少しお付き合い下さいませ m(__)m



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                           2013.10.25 UP



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