マークスの山 読書感想記・8




~10月15日 木曜日~
「おう、ナニワ合田のお出ましか。今ごろ七係全員、首洗って観念しているところだろうと思ってたが」 亀有署の会議室のテーブルで、朝っぱらからコンビニエンスストアの握り飯を食いながら、本庁第二強行犯捜査三係の岡村警部補は太鼓腹を揺すった。
七係の中で、唯一あだ名の無い合田さんですが、三係の岡村とやらには 《ナニワ合田》 と呼ばれてまっす。これがあだ名と言えるかどうかは疑問ですがね。 ちなみに、四課マル暴のお馴染み吉原からは 《合さん》 と呼ばれてまっす。 七係の中で、何で合田さんにだけあだ名がないのか? すごく気になる。 なぜ、七係の連中は合田さんだけ、あだ名で呼ばないのか? 謎。 これぞホントの七不思議・・・・なんちって。

合田は同じ庶務の机で、もう一本の電話をかけていた。西船橋の森のアパートは何度かけてもつながらなかった。森は、昨夜遅くに電話を入れてきたきり、丸一日音沙汰がない。みな捜査で手いっぱいだから誰も気付いていないが、無断欠勤がバレたらクビだ。それもさることながら、昨日からたて続けに起こった第三、第四の事件や、犯人の面が割れたニュースがテレビでさんざん流れているにもかかわらず、あの森が飛んでこないというのが、合田には気になった。
森くん、バックレ2日目。 しかも無断欠勤っ!? お蘭ちゃん、ダメ過ぎだろう。  これが三十路男の社会人が取る行動か?(呆)。 お子ちゃま過ぎる・・・・。

甲府への電話のあと、甲府へ派遣する男は森が適役だと思い、早速電話をかけたのだがかからない。 だが、そのときはあまり深く考えているヒマもなかった。受話器を電話機に叩きつけて席を立ったときには、もう森の顔は頭のすみから追いやっていた。
合田さんからの再三の電話も全然出ない、お蘭。 居留守を使っているのか、本当に家に居ないのか? ・・・・居留守とみた。

~10月16日 金曜日~
散会しようとしたとき、吾妻と合田は林の手招きで呼ばれた。林は低くした声で 「お前たち、森から何か聞いてるか」 と言った。吾妻と合田は 「いえ」 と応えた。 「病欠届けを出してきた。このまま上へ回すが、お前たちの方で何か意見はあるか」 「法定伝染病ですか?」 と吾妻はとぼけ、「その届けは保留にして下さい」 と合田は短く言った。 「森はすぐに引きずり出します」  (~中略~)  「お蘭の奴、またジンマシンか」 と吾妻が囁く。 「ああ」 とその話を打ち切って、合田は急いで別の話に入った。
「その届けは保留にして下さい」 「森はすぐに引きずり出します」 だって!! きゃ~ 合田さん、カッコ良すぎます、そのお言葉。 「引きずり出す」 って言葉にすごく萌えますわんっ。乱暴な言葉だけど愛情を感じまするぅ~~
※ちなみにココ、単行本60版からの抜粋ですが、23版では、こう。
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散会しようとしたとき、吾妻と合田は林の手招きで呼ばれた。林は低くした声で 「お前たち、森から何か聞いてるか」 と言った。吾妻と合田は 「いえ」 と応えた。 「病欠届けを出してきた。このまま上へ回すが、お前たちの方で何か意見はあるか」 「そりゃあ・・・・」 と言いかけた吾妻は言葉に詰まり、合田は 「事件が片づいてからにして下さい」 と低く怒鳴った。 「しかし、森は来てないだろうが」 「悪性の皮膚炎で寝てます。すぐに私らが引きずり出します」 「皮膚炎? そんなもの・・・・このくそ忙しい最中に何を言ってる」 「係長だって、胃潰瘍をやったやないですか。とにかく事件が片づいてからにして下さい。私らは忙しいんです。失礼」  (~中略~)  「皮膚炎で寝ているというのは、ほんとか」 と吾妻が囁く。 「ほんとや」 と合田は短くその話を打ち切り、話題を変えた。

23版と60版でこれだけの違いがあります。同じ 『マークス・単行本』 でも版違いで改稿されてるんですね。 他にも細かい改稿がちょこちょこ有ります。 細かく見ていったらもっと有りそうですが、さすがに面倒くさいのでやりません。さすが改稿好きの高村先生って感じ(汗)。

向かいに腰を下ろすと、吾妻はメモを一枚滑らせてきた。 《十四日深夜、森が田村継夫を殴打》 田村は捜査一課第一強行犯捜査の二係にいる警部補の名だった。森の机から資料一式を盗んだのはこいつか。 「どこからの情報や」 「噂よ。そこらじゅうに流れてる」 吾妻は、ファックスから顔も上げずにそう応えただけだった。
ああ、それで出てきたくても出てこられないのか、お蘭は。 噂がそこらじゅうに流れちゃってるんじゃねぇ。 しかし、だからって無断欠勤はヤバいだろう。小学生じゃないんだからさぁ。弱虫すぎ(呆)。 本当、単行本のお蘭は、ダメダメちゃんだな。

「それより、ペコさん。公安の奴らこそ、どないかならんか。奴らは山梨の白骨死体の身元を知っていて、人ひとり無実の罪で刑務所にぶち込まれるのを、黙って見ていたんだ。松井が殺されたとき、翌朝の会議に奴らが出てきたのは、事件のウラを知っていたからだ」 「それがどうした」 「あんた、何とも思わんのか」 「お前・・・・、俺より救いがたいな。俺がサドなら、お前はマゾだ」 吾妻は鼻先でにやにやして、「変態は二人も要らんぞ」 と一蹴した。
サド=ご主人様(いじめる側)  マゾ=奴隷(いじめられる側) ← ※【Wiki調べ】。  ひゃ~、ペコさん、何ちゅう発言っ! しかし、これ、ぴったり当てはまる様な気がします。合田さんは間違いなく虐められる側。ペコさんは間違いなく虐める側。 合田さんと吾妻ペコのそういう関係を妄想してみるのも面白いかも。 合田さんを虐めて喜ぶ吾妻ペコ。合田さんの苦しむ姿を見て興奮するペコさん(ブホッ鼻血っ)。 どうやって虐めるかって? それは皆さん、お好きにご想像下さい。 それにしてもやっぱり、合田さんって男殺しなのね。

「それが嫌なら、政治家にでもなれ。いいか、合田。お蘭は二係の田村継夫にサされた。田村は公安の犬だ。お蘭の正直者は殴り返して自滅した。これが意味するところはな、あらゆる意味で、お蘭がバカだってことだ。バカに対峙するのはバカだ」 合田はうるさくなって、テーブルをひとつ叩いた。 「なんでもええけど、森は俺とくっついてたからサされただけだ。それに、森は自滅なんかしてへん。あの剛直がこれしきのことで潰れるか」 「だったらお前もだ」 その一言を残して、吾妻はさっと席を立った。
まじ、ヘタレ過ぎる、お蘭。 そのくらいで出社拒否になるかっ!? 30男がっ!  子供過ぎるだろー。 ダメ男過ぎる(呆)。 しかし合田さん、「あの剛直がこれしきのことで潰れるか」 っだって。 きゃっ、愛だわぁ(うふっ

合田は、もう何度かけたか分からない西船橋の電話番号のボタンを、あらためて押した。期待していないときに限って、呼出音が四回で途切れ、受話器が挙がった。 《はい》 という無表情な固い声が聞こえた。 「この二日、どこへ行ってた」 と合田も無表情に言った。 《病院です。病欠届け出しました》 「それ、保留や。俺がそう林に言うた。今すぐ出てこい。木原郁夫が自殺した。人手が足りへんのや。・・・・出てきてくれ」
「それ、保留や。俺がそう林に言うた。今すぐ出てこい。木原郁夫が自殺した。人手が足りへんのや。・・・・出てきてくれ」 ← きゃ~~~~、「出てこい」 と、言った後、「・・・・出てきてくれ」 と、言い直すとこが萌えだわぁ そうよね、こうなっちゃうと誰かが背中押してくれないと、出てくるきっかけ失っちゃうもんねぇ。 このままお蘭ちゃん、ズルズルだめになっちゃってたかもしれないところを、ぶっきらぼうながらも、さりげなく手を差し伸べてくれる合田さん。 萌え 

受話器の向こうで一秒か二秒ためらう気配があり、《田村を・・・・》 とぶつぶつ言う声がそれに続いた。 「事件が第一やないんか、お前は!」 と合田は怒鳴った。 「すぐに、そこから亀戸へ出るなり何なりして北千住へ急げ。半時間で千住署へ行って、町屋の豆腐屋の立入りは七係がやると言え。水沢裕之の里親の家だ。異変があった。七係の総代やと言うて、つべこべ言わすんやないぞ。分かったな! 何かあったら、一番に俺を呼び出せ」 それだけ言って、合田は一方的に受話器を置いた。腹の底が少し疼いた。人に対する甘さは生来のものか。いや。日々自分自身が誰かから受けている労りや慰めを、折りにふれて人に返していかなければ、荷が重いのだ。それだけのことだと思った。
「何かあったら、一番に俺を呼び出せ」 ← (ブホッッ 鼻血っ!! 2回目)。 ご、ごうださん・・・カッコ良すぎる。 吾妻ペコには虐められる側だけど、お蘭ちゃんの前では男前だわ。 頼もしいお兄ちゃんって感じかしらん 虐められるマゾ雄一郎も、萌えだけど、漢気あふれる雄一郎も、萌えだわん だけど、《日々自分自身が誰かから受けている労りや慰め》 って、誰から受けてるのかしら? そりゃぁ、もちろん加納さんでしょうねぇ。 吾妻ペコもアリかな?

離れたところで、十分ほど様子を見守るうちに、またポケットベルが鳴り出した。公衆電話に走り、碑文谷に電話を入れると、十姉妹のうわずった声が聞こえた。町屋の豆腐屋で山本勝俊と郁代の死体を発見。凶器の包丁一本、裁ちバサミ一本、その他を回収。死後約二日。 「連絡は森か」 《そうです》
おっ、お蘭。 行ったんだな、豆腐屋の立入り。 そうだよねぇ、あそこまで合田さんにして貰って行かない訳がない。 それにしても、お蘭は、少しは合田さんに感謝の気持ちを持ってるのかしらん? 『LJ』 で、八丈島から遥々お見舞いに来たくらいだから、きっと心の中では感謝してるのよねっ。



               ~ マークスの山・読書感想記  次ページへ続く ~



           



高村薫という作家は、単行本から文庫本化する際に 「違う作品か?」 と思う程、大幅に改稿することで有名ですが この 『マークスの山』 も、例外になく単行本→文庫本化で、大幅に改稿されてます。
で、今回改めて気が付いた事。
それは、単行本での吾妻ペコの活躍を、文庫本ではお蘭がかなりかっさらっているという事。
単行本でのペコの台詞をかなりの部分、お蘭が奪ってます。
でもペコさん、ペコさんの一番の見せ場の京王プラザで林原を追い詰めるあの場面は文庫本でも健在だから、お蘭ちゃんを憎まないでね。




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                           2013.8.29 UP



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