マークスの山 読書感想記・7




そんなことを考えながら、ちらりと腕時計を見、ふと行方不明のままの森のことなどを思い出したりした。
合田さん、あいかわらず、お蘭ちゃんのこと考えてまふ。うふっ

手元の電話が鳴り、雪之丞の声が 《変化なし》 と報告した。続いてまたすぐに鳴った電話を取ったら、なんと森の声が聞こえてきた。 《すみません。話が・・・・・》 と言う。いつも抑揚のないその声から、推察出来ることは何もなかった。わけもなく無性に腹が立ってきて、合田は低くした声で受話器に怒鳴った。 「何が話だ。一日、どこで何してた!」 《話があります。今、都立大学前駅にいます》 「電話なんかかけてくるヒマがあったら、こっちへ出向いて話せ、アホ」 《本部では話せません》 という森の頑迷な声だった。
《話がある》 って言ってるんだから、話ぐらい聞いてあげればいいのにぃ。合田さん。 何で本人と接するとこうなっちゃうのかなぁ? 今まで散々、心配していたくせに・・・・。 いきなり頭ごなしに怒鳴りつけるなんて。可哀想じゃない、お蘭ちゃんが。 しかし森よ、なぜ都立大学前駅に居る? 1日行方不明になって、そこで何やってるの?

森の言葉はしっかり聞こえていたが、なぜかそのときはそれを理解する頭がなかった。森の話が終わる前に、合田は再び怒鳴っていた。 「三番目のガイシャが出たというときに、何を寝ぼけとるんや、貴様は!」 《こっちにも事情がある!》 突然、受話器の向こうで森が叫んだ。 《盗人を殴りました!》
あっ、森くんが合田さんに切れた。そうだよねぇ、いろいろ事情があるのに、ろくすっぽ話も聞いてもらえず、怒鳴られるんじゃぁねぇ。 でも、これも合田さんの愛情の裏返し。そうに違いないっ。

「ちょっとそのまま待て」 合田は電話を保留にして、幹部席の端で頭を垂れている林に近づいた。 「係長、森を本部に戻します。人手が足りないので」 顔を挙げた林が何か言う前に、合田はもう自分の電話に引き返していた。 「すぐに本部へ出て来い!」 と受話器に言って、一方的に電話を切った。
合田さん、酷いよ。一方的に電話切るなんて。 いきなり怒鳴られて、挙句の果てに一方的に電話を切られる森くん。 そりゃぁ、言いたい事も言えないよなぁ。 可哀想なお蘭ちゃん(涙)。

資料が盗まれた・・・・・? 盗人を殴った・・・・・? 一瞬あらためて戸惑い、すぐに考え直した。あり得ることだった。それしきのことで丸一日行方不明になって、夜遅くになって 『話がある』 などと電話を入れてくるのは論外だった。資料を盗まれたら、新たに資料をかき集めて調査を続けるぐらいの神経がなくて、刑事がやっていけるか。そう思うと、腹立ちが倍加した。犯人が白昼、主婦一人を九ミリ・パラでぶっ飛ばして逃げているというときに。
お蘭ちゃんは、普段は強がってるけど本当は繊細なのよ、合田さん。資料を盗まれたぐらいで凹んじゃうのよ~。そんで相手を殴って、また、凹んで。・・・・って、でもお蘭、それで一体君は一日どこで何してたんだっ? ポケベル何回も鳴っているのに連絡も寄こさないで、どこをふらついていたというのだ。 30のくせにお子ちゃま過ぎる。 合田さんが怒鳴るのも分かるような気がする。

「電話で、何を怒鳴ってた、え?」 「怒鳴ってへん」 「誰の電話だ」 「森。本部へ来いて言うたんやが、遅いな・・・・」 「ああ、お蘭か。忘れてたな。本部へ戻すの、林の了解取ったのか」 「ああ、取った」 「そいつはよかった。一人増えたら助かる。肥後らの見張り、そろそろ交替してやらなきゃならんし」 吾妻は少し身を屈めてひそひそ話の態勢になった。
みんな、お蘭ちゃんの存在なんて忘れてるのね。まぁ、居ない奴のことなんてかまってらんないんだろうけど。 でも、そんな中でも合田さんは、ちゃんとお蘭ちゃんのこと忘れずに気に掛けてくれてるなんて・・・・。愛だわぁ

当てのない疑問を繰り返しながら、またふと腕時計を覗いたとき、碑文谷の署員が、「森巡査部長から」 と茶封筒一つ机に置いた。無地の茶封筒の中から、白無地の別の封筒が出てきた。
もしかして、お蘭ちゃんから合田さんへのラブレター? ・・・・・違ぇよ しかし、無地の茶封筒の中から、白無地の別の封筒、って、そんなに厳重にする必要あるんだろうか??

受話器を置いて、白無地の封筒を開いた。 『一身上の都合により今夜は本部に行けません』 と書かれたメモが一枚。昨夜本庁で最後に調べたらしい、山小屋の記録のメモ一枚。 ( ~中略~ ) 合田は二枚の紙を封筒に突っ込んで、自分の懐にしまった。腹がふつふつ煮えくりかえってきたが、それにはいくらか当惑も含まれていた。電話口で何やら叫んだ森の声が耳に残っていた。
だ~か~ら~、合田さんがちゃんとお蘭ちゃんの話を聞いてあげないからじゃない。切羽詰ってたのよ~。そんで合田さんに電話してきたのにぃ。いきなり怒鳴るから、合田さんがいけないのよ。

森は多分、今夜もジンマシンがふき出しているのだろう。アレルギーの発作は、臭いだけでなく精神的な要因でも起こるから、もしそうなら、今夜は資料を盗んだ奴が悪いのだ。 とはいっても、本人の意思とは別に、日々最大限の機動力が要求されるこの世界で、身体的な不都合による仕事の不能は問題外だった。誰かを殴ったというが、すぐに手が出る暴発性も問題外だった。森はだめかな、とぼんやり考えた。
やっぱり、繊細なのね、お蘭ちゃん。 この後 『照柿』 で、島への転属願出すけど、この頃からもう本庁でやっていくことの限界を感じつつあったのかなぁ? 

合田は、懐の森の封筒に胸を突き刺されながら、際限なく九日間の自分の足跡を振り返り振り返り、葛飾区の一五軒の病院の電話番号と所在地を手帳に書き取った。
《懐の森の封筒に胸を突き刺され》 って(きゃーっ!)、合田さんって、やっぱり森くんの事すご~く可愛がってるのねぇ。 「おぉ~よしよし、お蘭」 って感じ? ←(ハチ公とかタマみたいな扱い)。

森のことを考えると、無性に寂しくなってくる。犯人は逃げ続けているが、ゴールがあと数歩にまで迫っているのは確実なのだ。その最後の苦しい上り坂で、仲間がひとり脱落していく。よりにもよって、俺の 《お蘭》 が。
うふっ、ここ、あたしの一番のお気に入り。 「俺の 《お蘭》 」っすよ~。 「俺の 《お蘭》 」!! 合田さん、普段森くんの事、お蘭って呼んだこと無いのに~~! きゃ~ しかし、この場面、文庫本ではきれいさっぱりカットされてまふ(涙)。 まぁ、文庫本では相当改稿されてますし、話の流れから言ってカットは致し方ないんですがねぇ。残念です。

「佐伯氏の自宅の様子がおかしい。誰かが侵入した形跡がある。ご本人の所在が分かっているのなら、すぐ知らせてほしい。もし所在不明なら、強制立入りをします」 《そちら、警察・・・・ですか》 「質問に答えて下さい。佐伯氏の所在は分かっているのか、いないのか!」 《ちょっと待って下さい》 そこでしばらく保留音になり、また別の声が 《今、どこだ》 と穏やかに尋ねた。同僚検事の手前もはばからない、いつもと同じ加納祐介の声だった。
MARKS5人衆の内の1人である佐伯の自宅の異変に気付き、検察合同庁舎四階の地検特捜部に電話をかける合田さん。 地検特捜部といったら、この人が出てこないはずはありません。 いや~、久しぶりの登場ですが、のっけから涼風が吹いてます。さすが加納さんや。

いや、加納が電話に出たのが、偶然でないことは分かっていた。電話の主が警察だと分かった時点で、加納には誰だか分かったはずだった。いや、加納だけでなくほかの検事たちにも。 「佐伯の所在、分っているのか、いないのか」 と合田は短く繰り返した。 《不明だ》 と加納は応えた。 「だったら、今から佐伯の自宅の強制立入りをする」 それだけ言って、合田は一方的に電話を切り、無言の拳ひとつを電話ボックスのガラスに見舞った。
合田さんは、加納さんが電話に出たことに対し、「噴き出しかけていた罵声が引っ込み、我ながら呆れ返って受話器を取り落とすところだった」 などと言っておりますが、本当は加納さんの声が聞きたかったんじゃないの~? 

合田は電話ボックスを飛び出し、佐伯の自宅へ向かって走った。自分の行動はよく分からなかった。同僚の前で平然と電話に出る加納の神経も分からなかった。だが、そうして不用意な電話を入れた自分は、特捜部の内偵を気づかったわけではなく、ただひとりで佐伯の家を覗くのが怖かったのだった。怖くてたまらないときに、電話を入れるところはどこでもよかったのだが、よもや身内の警察にはかけられなかっただけだ。加納の声は聞きたくなかったと、勝手なことを考えた。
合田さん自身も気付いてないけど、無意識に加納さんに助けを求めたのよ~。怖くてしょうがないときに潜在意識が加納さんを求めた結果の行動よ~、きっと (ほんとかよっ?)。 「加納の声は聞きたくなかった」って? 合田さんも素直じゃ無いわね。う~ん、複雑な男心ね。 しかし、恐怖に打ちひしがれながらも、ひとりで佐伯の自宅の強制立入りをする合田さんって、かっこいい。加納さんじゃなくても惚れるわ。

佐伯の異変の一報はすぐに地検特捜部へも届いたはずで、同じように駆けつけてきた男たちだった。加納祐介の姿があった。合田の足が自動的に回れ右するより早く、加納の声が 「雄一郎!」 と叫んだ。 加納は手招きをし、悠然と合田の袖を引いて、同僚検事たちの前に引き出すやいなや、「俺の義弟だ」 と言った。 「合田雄一郎。捜査一課の固い石だ。今後ともよろしく頼む」
きゃ~!! 涼風がびゅんびゅん吹きまくってますっ! 爽やかすぎるぞ、祐介っ!! ・・・でも、義弟って・・・、元義弟だろっ。もう貴代子とは離婚してるんだから。今は義弟じゃないと思うんだけど。 加納さん、義兄ってポジション、気に入ってるのかしら。きっと、合田さんとの糸を繋ぎとめておきたくて必死なのね、健気だわ~(涙)。

巷に徘徊する噂や中傷の毒虫をさっさと自分の手で払って、同僚たちに義弟を引き合わせた加納は、そうして先手を取り、清々した眼差しを合田に投げた。
あいかわらず、涼風吹きまくってるわ~。加納さんったら。 お蘭もちょっとは見習え。

加納は、《またな》 と片手を挙げた。合田も片手を挙げた。 《俺は正しいし、お前も正しい》 そう言いたげな毅然とした目をよこして、加納は背を向けた。合田も足早にその場を離れた。 別の路地へ逃げてひとりになり、合田はやっとタバコに火をつけた。今夜一度に押し寄せてきた数々の狼狽。自責や悔恨の怒号。それらはいつの間にか鎮まっていた。我が道を行く義兄殿に負けた、と思った。
か、加納さん・・・・、爽やかすぎる。本当に加納さんの周りだけ涼風が吹いているような感じがする。加納さんが登場する度にその場に、サーッと涼風が吹くイメージがあるんですけど、あたしには。 まぁ、そんな加納さんも内面ではいろいろ有るんだろうけど。



                                              ~ マークスの山・読書感想記  次ページへ続く ~

            


          



今回は、あたし的森くん萌え場面が多すぎて、かなり暴走してます。
毎度ながら、森くんファン以外が見ても、面白くないだろうなぁ的な内容だと自分でも重々自覚しております。
そして、加納さんのひさびさの登場です。
出番は多くは無いですが、あいかわらず美味しいところをさらっていきますね。
合田さんと森くん。 合田さんと加納さん。
今回は、それぞれの関係性と、3人の個性が垣間見れるんじゃないか的な・・・・・。 




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                           2013.7.29 UP



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