照柿(単行本)読書感想記・2


                      ~ 第一章 女  より ~



雄一郎の方は、署の玄関で、三々五々帰宅する刑事課の連中や七係の数人と一緒になった。 「行きましょかぁ」 と肥後部屋長のおっさんに声をかけられ、ほかの同僚ともどもちょっと近くで一杯ということになった。
さぁ~、これから七係の宴会の始まりっす~

足も首筋も真っ白で、むっちりして。それしか形容詞はないのか。座の端で又三郎と別の話をしながら、雄一郎はしばし耳をそばだて、そんなことを思った。
酔って美保子の噂をする同僚達の話に興味津々の雄一郎くん。又三郎と別の話をしながら美保子の話に耳ダンボになってしまう雄一郎くん。 なんか、かわえぇ なんやかんやいって、やっぱりおぬしも男よのぅ。 でも、こんなこと知ったら、祐介が泣くぞ。

一方、無粋な森義孝が 「なんで殺人なんですか」 と真顔で言い出していた。 「男と女がホームでつかみ合ったのは私が見た。男が女を突き落としたと断定するような状況ではなかった。あれは、男が女を止めようとしたんです」
皆がエロ話で盛り上がっているのに空気を壊す森。う~ん、あいかわらず、冗談の通じない男だ(汗)。 酒の席なんだから少しはエロ話にも付き合ったらどうだ、お蘭。

「お前はなぁ、お蘭」 と肥後のダミ声が上がった。 「男と女の話に口出すのは百年早いわ。自分がまず女の股に首突っ込んでだな、それから言うこったぜ。ねえ、主任! あんたが教えないからお蘭はいつまでもコレなんだ」 雄一郎は聞こえなかったフリをしてすませ、森が 「真面目な話だ」 と言わなくてもいいことを言い、「大きな声を出すな」 とたしなめる広田義則の声がそれに続いた。
だから、真面目過ぎるっちゅうねんっ!お蘭。 肥後のおっさんのジョークやろ?これ。真面目に返すなっちゅう話やねん。 いや、肥後のおっさん、半分本気で言っているんやろか? 合田さんも聞こえなかったフリするなよな。美保子の話には耳ダンボになってたくせによぅ 是非、合田さんからお蘭ちゃんに色々教えてあげてほしいわ~。なんなら、合田さんがお蘭ちゃんに実践で教えてあげてくれても・・・・・。 しかし、女の股に頭突っ込んでいるお蘭。・・・・想像したくない(汗)。

「あんたが管内を荒らしているから、奴ら、嫉いてるんだ。あんた、組の受けはいいわ、身持ちはいいわ、金はばらまくわ、だしよ。俺が連中なら、あんたにヤキ入れてるところだ。ともかく、ひょっとしたらサされる可能性もあるから、早いうちに手を引くこった。出世したけりゃな」 「だったら手、引く必要ないわ」 雄一郎は大阪言葉でそう呟き、そのアクセントに耳がひくついたのか、又三郎はちらりと身震いした。
「受けはいいわ、 身持ちはいいわ」 ってなんか意味深な感じじゃございませんっ!? 受けとか身持ちとかってなんか隠微だわ。 そういえば、秦野組長も合田さんのこと大のお気に入りだもんねぇ。 やっぱ、合田さんって男殺しだな。 祐介が泣くぞ。

早足で八王子駅にたどり着き、もっと早くにかけなければならなかった私用の電話一本をかけた。その日は、別れた妻の水戸の実家で、先代当主の七回忌の法事があったのだ。 ( ~ 中略 ~ ) つながった電話に余計な物音はなく、応えたのは若い当主の静かな声が一つだった。
さぁ~、水戸の実家~~ 法事~ 雄一郎と祐介が水戸の実家で二人っきり~ 祐介、チャンスだぞっ!!

どんな事情があれ、女房を不倫に走らせたこの自分に向かって、顔を出せるはずもない法事に来いという義兄は、未だに妹の壊れた結婚や、雄一郎との義兄弟の関係について、何かの幻を見続けている。
だ~か~ら~、加納さんはなんやかんやいって雄一郎と逢いたいだけなのよぅ。義兄というポジションにしがみ付きたいのよぅ。雄一郎との糸が切れないように必死なのよぅ。気が付いてやれ、雄一郎。

電話に出た義兄の声も、以前に比べればずいぶん淡々としてきていた。大学時代からの十六年の親交だから、互いに心のうちはいやというほど読めるのだが、それも最近は、何を分かるとも分からないとも言わず、互いの感情に触れ合うことも少なくなった。
いやいや加納さん、淡々としている様に装ってはいるけど合田さんからの電話に、本当はドキドキのはず。 それに合田さんは 「互いの心のうちはいやというほど読めるのだが」 とか言ってるけど、全然読めてないし。加納さんが自分のこと好きだなんて全然気付いてないし・・・・。 鈍感だな。このバカチンがぁ!!

法事については、義兄は一応声をかけただけだと言うだろうし、雄一郎はあれこれの事情で行かなかったと言うだけのことだ。
ふ~ん、一応声をかけただけねぇ。一応声かけただけ、一応ねぇ。・・・複雑な男心やな、祐介。 素直に 「会いたい」 って言えないのね~(おほほ)。

昨日、八王子の銀行で下ろした二十万は、ある筋の若い衆と賭けマージャンをやって五万減った。今日一日、昼間はタクシーも使わなかったし、森と昼に食ったのは冷麺だったし、などと考えながら、十五枚たしかに残っているのを確かめた。
今日の合田さんの昼食は冷麺です、皆さん! 森くんと一緒に冷麺食べたそうです。 合田さんも森くんも冷麺好きなのかしらん? ちなみにあたしは冷麺が苦手です。なんか麺がゴムみたいな触感で・・・(汗)。




                        ~ 次ページへ続く ~




 

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                                                          2014.09.16 UP


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