照柿(単行本)読書感想記・3



                ~  第二章 帰郷   より  ~
                    ( 雄一郎とお蘭の大阪出張編 )



いつの間にか後ろに立っていたのは、歳のころ三十前後の、無粋な能面のような面をした若造だった。首筋に、アトピーらしい発疹の跡が見える。「お話中、失礼します。遅れました」と、そいつは機械のように言った。
達夫から見たお蘭像。無粋な能面のような面をした若造・・・。けっして、ぶ男とは言ってないよね。ぶ男とは言ってない(2回言う)。

森義孝には「ちょっと先に行ってくれ」と言い渡したのだが、ひょっとしたら俺が《銀の鈴》で五分も眺めていたのをどこかで見ていたかも知れない。あの意地の悪い森なら、そのぐらいのことはやりそうだ。
あの意地の悪い森って・・・。達夫といい合田さんといい、ずいぶん酷い言い様じゃないか(涙)。森くんに謝れ雄一郎!それに、あんたの行動なんてお蘭はそんな監視しておらんわいっ!!(お蘭なだけに)。 あんたがジトーッと美保子の逢引き場面を見ていたのをお蘭がどこかに隠れて見ていたっちゅうんかぃ? それは無いな。(いや・・でも、もしかしたら・・・・・)

ただでさえ思いがけない野田達夫と佐野美保子の逢引きを盗み見て動転しているところへ、もう一つ森の無粋な顔を重ねて焦ったり混乱したりしながら、雄一郎は乗換口の改札へ駆け戻った。森は連絡通路にあるトイレの脇で新聞に読みふけっていた。雄一郎の姿を見ると、別に何を言うでもなく新聞を畳み、さっさと先に歩き出す。
う~ん、お蘭、これはやっぱり怪しい。無関心を装いつつ、実は合田さんに興味津々だったりして。やっぱ合田さんを見てた可能性大。銀の鈴でジトーッと美保子の逢引き場面を見ている合田さんを、物陰からジトーッと見ている森・・・・三角関係? わ、笑えない。怖い

森は、以前は近くにいると消毒液の臭いがしたものだった。ステロイド軟膏のほか、アトピーに効くという特殊な繊維の肌着、入浴剤、薬用石鹸、生活用品の消毒剤など、ありとあらゆる方法を試していたからだが、どれも効果がなかったのか、夏に入ってから一切やめてしまった。雄一郎がそれに気づいたのは、臭いがなくなったからだ。
そうそう、森くんはこの頃はもう島に行く決心を固めてたのね(涙)。 それなのにそれなのに、合田さんったらっ! でも、消毒液の臭いって・・・。『匂い』じゃなくて『臭い』。なんか、森くんが臭いヤツみたいじゃないか(悲)。

本庁に配属されて一年半、持病を隠しながら人一倍努力を積み重ねてきたのに、ここへ来て、こいつも何かあったのだろうかと雄一郎は気まぐれに考えた。そういえば、何日も前から一度聞こう聞こうと思っていたのだが、ついつい機会を失い、今もまた、失いつつあった。
だから、お蘭ちゃんは島に行っちゃうんだってばっ!! 聞こうと思ってるなら早く聞いてやれよ~。なんで聞かないの~? お蘭ちゃんが島に行っちゃったのはお前のせいだー!!

「竹内巌は吐きましたか」 雄一郎は、いきなり傍らから喋りかけられて、揺り起こされたように我に返った。
「何か言ったか」 「竹内です。大宮で吐きましたか」 「大宮の話、誰に聞いた」 「あとを尾けました」 愛想のかけらもない森のこうした物言いには慣れているが、そのときは、いきなり腹をぐさりとやられたような思いで、雄一郎は思わずその横顔を睨みつけた。
大宮まで合田さんを尾行して何をしていたか?→お蘭いわく「マンションの下で待ってました。私らのホシですもの。私は博打は打てないから、せめて見張りぐらいは。手入れでもあったら、私も被害被りますし」だそう。忠犬お蘭か?嫌がらせか? でもでも、こういうお蘭が大好き。 ひん曲がり具合がカッコよか~

これが新幹線の中でなければ、即座に三行半だと思いながら、雄一郎は尾行に気付かなかった自分の散漫さにも身震いした。
三行半?! そうか、お蘭は合田さんの嫁だったのかー。うんうん、やっぱりそうか。少なくとも合田さんは森くんを嫁と認めているのね(違う)。 しかしお蘭、尾行って! 合田さんを監視したり尾行したり・・・やっぱり合田さんのことが気になってしょうがないのねん(きゃっ)。 でも、それではストーカーだぞ。お蘭よ、君の愛情表現は間違っているぞ。

森がいちゃもんを付け始めたら、大阪へ着くまで延々この調子なのは間違いなかった。森が女なら絶対に女房にしたくないタイプだと思いながら、雄一郎は頭の半分で何とか話を切り上げる糸口を探し、残りの半分で投げやりな罵声を洩らした。
ほえぇ~、女房だって! やっぱり合田さんは森くんをそういう対象で見ていたのかしらん?三行半とか女房とか。髙村センセー! 萌えです~

「すみません、血がついてます・・・・・」 雄一郎が振り向くと、森は漂泊したような自分の白い左掌を差し出してきた。
森くんのしつこい追及に、合田さんがいい加減うんざりして新幹線で寝ようとしているのにまだしつこく話しかけてくる森(汗)。 おぉ、そうかそうか。そんなに合田さんとお話していたいのね。せっかく新幹線の中で二人っきりになれたチャンスだもんね。 しかし、『漂泊したような白い左掌』って。森くんって色白ちゃんなのね、きゃ~(萌え

雄一郎はそのまま手帳をポケットにしまい、森に背を向けた。眠ろうとしたが、思いがけない動揺がまた一つ額の裏にもぐりこみ、眠れなくなった。自分が悪いのは分かっているが、何よりまず森が腹立たしかった。大阪へ着いたら、何か用事を作ってひとまず森を放り出そう。
森くんは何も悪くないのに! 合田さんもプライベートで色々あるんだろうけど何も森くんに八つ当たりすること無いじゃん~。 合田さんがそんなに冷たくするから森くんは島に行っちゃったんだよぅ(涙)。雄一郎のバカァァァァァァァァァァァァ!!




                        ~ 次ページへ続く ~





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                                                           2015.02.06 UP

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